伊豆大島
太平洋の荒波に立つ「神の宿る岩」。筆島で気の遠くなる時間を想う。
波浮港のノスタルジックな余韻に浸ったあとは、さらに海岸線沿いをドライブ。 伊豆大島は島全体が巨大なパワースポットのようなものだけれど、その中でも私が「ここには確実に何かがいる」と、来るたびに畏敬の念を抱く場所がある。
それが、東側の洋上にぽつんと浮かぶ奇岩、「筆島(ふでしま)」だ。
展望台から海を見下ろすと、海岸線から100メートルほど沖合に、その名の通り「筆の穂先」のような形をした岩が、青い海を突き破るようにそびえ立っている。
一見すると、ただの不思議な形をした岩。 けれど、この岩のバックグラウンドを知ると、見え方がガラリと変わる。
「これ、大島(三原山)よりもずーっと先輩なんだよね……」
伊豆大島といえば三原山が有名だけれど、実は大島には昔、3つの火山があった。 その中で最も古いのが、240万年前から数十万年前ころに活動していた「筆島火山」。当時は標高1,000メートル級の巨大な山だったと推定されている。
じゃあ、なぜ今はこの岩だけなのか。 実はこの筆島、火山そのものではなく、「マグマの通り道(火道)」だった場所なのだ。
火山活動を終えたあと、何十万年という気の遠くなるような年月をかけて、太平洋の激しい荒波と雨風に山全体が削り取られていった。その結果、火道にあったひときわ硬い岩(火道角礫岩)の残骸だけが、侵食に耐えて海中に取り残された。それが、この筆島の正体。
どんなに激しい白波が打ち寄せても、一歩も引かずに毅然と立ち続ける姿。 昔の人がここに「神の宿る場所」を見出し、崇めてきたのも、理屈抜きで深く納得してしまう。
視線を海岸線のほうへ移すと、標高約300メートルにも及ぶ荒々しい海食崖(かいしょくがい)がそびえ立っている。 よく見ると、赤茶けた地層を上下に真っ二つに貫く、灰色の筋が何本も走っているのがわかる。
あれは「岩脈(dike)」。 かつて地下からマグマが地面を割りながら上昇し、そのまま地中で冷えて固まった、まさに「マグマの足跡」だ。この海岸には、そんな岩脈が50枚以上も露出している。
剥き出しになった地球の骨組みを前に、圧倒される。
都会にいると、せいぜい「今週の予定」とか「今月の締め切り」なんていう短い時間軸の中で一喜一憂して生きているけれど、ここに立つと「数十万年」という地球のスケールに頭をガツンと殴られる。 私の悩みなんて、この波のひと飛沫(しぶき)にも満たないくらいちっぽけなものだ。
「よし、パワーもらった。明日からまた、ボチボチがんばるか」
心地いい敗北感に似たスッキリした気持ちで、私は車へと戻る。 大島のリピート旅。こういう自然の凄みにいつでも会えるから、私はこの島から離れられないのだ。